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昨年、日本傾斜地マップというものを作りました。

震災直後の3/14に地盤工学会に寄稿として紹介論文を送り、手直しを経て先日、『地盤工学会誌』の2011年10月号(Vol.59 No.10 Ser.No.645)に掲載されました。

そもそも、この、日本傾斜地マップに相当するものを作成しようとしたのは、2006年頃でした。
当時は、急斜面地の安全性・健全性を評価する上で、地盤の傾斜のみならず、地質データおよび雨量データも含めた総合的かつ広域的な地盤評価方法を目指していました。

造成された斜面はともかくとして自然地盤(斜面)における安全性を評価することにより、たとえば道路沿いの斜面崩壊の防止対策を重点的に行う場所の選定や、土石流などによる大規模な土砂災害に対する対象となる場所を絞り込むことを目的としていました。

このシステムのポイントは、次のとおりです。

  • 斜面と構造物との位置関係をわかりやすくする
  • 机上のデータのみで簡単に分析ができる
  • 誰でも簡単に扱える(費用負担が少ない)

当時の構想における斜面評価のポイントは次のとおり。

  1. 斜面の情報
  2. 表層地質の情報
  3. 雨水の地表面流下解析(流域把握)
  4. 降水量の地域的な重み
  5. 断層や地震頻度による地域的な重み

それぞれの項目に対して、対象区画に点数を付与し、総合点で対象区画の斜面の健全性を評価しようと考えていました(下図)。

また、この方法の有用性は斜面崩壊地の実データと照合することにより検証しようとも考えていました。

ところが、当時は、入手可能な標高データとしては50mメッシュのものしかなく、最初のステップで躓いたためにプロジェクトが頓挫してしましました。
ちなみに、50mメッシュでデータを作って検証すると、結果は「微妙」の一言に尽きます。
某大学の先生にもご協力いただきましたが、詳細な標高データを広域的に入手することは困難でした。

プロジェクトを終結させた後、国土地理院が10mメッシュの標高データを公開したので、とりあえず傾斜値データだけでも整理したのが、『日本傾斜地マップ』です。
傾斜地評価システムのプロジェクトはグダグダになってしまいましたが、傾斜地情報だけでも活用できる場面はいくつかあるだろうと考え、公開している次第です。
たとえば、『急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律』における急傾斜地の選定や、地震時や降雨時の土砂災害ハザードマップ(自治体レベルではなく、行政区・町内会といったローカルな利用)として利用することが可能だと思います。

このような情報を盛り込んだGIS製品は既にありますが、個人レベルでの利用や試験的な利用での導入には金額的に敷居が高いことと、オンラインサービスで地理情報レイヤーが管理されているために、回線速度が操作性を損ねる原因となっていることがしばしばあります。
また、データをナマの状態(数値)で提供しているので、この数値データを使って何か別の計算をするといった使い方ができると思います。
ちなみに、傾斜値の算出は2.5GHz以上のCPUコア10個の並列計算で1ヶ月以上はかかりました。スマートなアルゴリズムでプログラムを組める方ならば、もっと速く計算できると思いますが、計算だけでも結構時間がかかりますので、時間短縮を目的として利用されてもよいと思います。

そんなわけで、少しでも役に立てば…と考えています。

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